珈琲を頼んだら紅茶が出てきた話

http://d.hatena.ne.jp/kokorosha/20080204
啓発されたので自分でもやってみます。
お目汚しですみません。


「えぅっ」
俺は悪態が口から出てくるのを止められなかった。
そのカップを持ってきた能面顔の女に抗議しようとした。
ちなみに、能面顔というのは無表情な顔のことを指すのが普通なのだろうが、こいつの場合は違う。
No!Men顔なのだ。
つまりは男を拒絶し、男から拒絶される、男性の男性による男性の為のものではいっさいない、いわば残念顔の持ち主だからだ。
念のため言っておくがこうしたひどいことは俺の考えではなく、こんなことを言いだすのは決まってたかしだ。
たかしというのは、小学校からの腐れ縁のやつで、メンクイ日本代表の称号をほしいままにしている。
中学生の時、一度だけ、やつの家に遊びに行ったことがあるんだが、その時見たおふくろさんはきれいな人だった。
俺たちは、ずっと姉貴と勘違いしてたんだが、あとからあれがおふくろさんだとわかって驚いたくらいだ。
日本代表が生まれるには、環境も重要なようだ。
「あの〜これ、、、、ひょっとして、、こう、、ゲフンゲフンじゃありません?一応俺が頼んだのはコー、、、ゲフンゲフン、、ヒー」
うわ、俺、なんで肝心なところで噛んじゃうかな。


「出よう!こんな店で飲んじゃいけない!」
その時、そう言って立ち上がったのは俺の直前に注文のカップが運ばれた隣席のリーマン風の男だった。
「明日もう一度この店に来てください。こんな紅茶みたいな薄い珈琲よりずっとうまい珈琲をご覧に入れますよ」
なんだか憤然と店を出て行った男を連れの女が追いかけていった。
「ちょっと!待ってよ。山岡さんたら!もう、いつも勝手なんだから!」


さっきのまた明日来いって捨て台詞、もしかして俺に言ったのか?
って、これ紅茶みたいだけど、一応珈琲?なのか?「紅茶みたいなコーヒー」って言ってたようだけど。
もしこれがコーヒーなのなら、俺の抗議はまったく的外れであって、その意味ではさっき抗議を明確に発音できなかったのはむしろ僥倖と言えよう。なぜなら、さきほどの抗議が明確に伝えられてしまったなら、その瞬間から俺は馬と鹿の区別がつかない人物を馬鹿と呼ぶようにコーヒーと紅茶の区別がつかない、こーひーこうちゃだ、ちょっと長いからこーこうだ、いやむしろ縮めればいっそ「こーちゃ」でいいんじゃないか、と後ろ指を指され、いたたまれなくなり、この喫茶店に二度と足を踏み入れることができなくなるに違いないからだ。
ビバ噛み倒し!ビバ俺!


そういえば紅茶はblack tea。黒いっつってんだからこれがコーヒーだろうが紅茶だろうがどっちでもいいし、文句を言うなら店に頼らず自分で淹れろってことだよな。


俺は晴れ晴れとした気分でその喫茶店に寄り道せず、まっすぐに家に帰ることにした。